ドアを開けると、そこにはルキソミュフィアの各地域から集まったモクト長が集まっていた。
ルキソミュフィアのモクトは全部で18に分かれているのでモクト長は18人だが、議会を進行する議長と副議長、議会の内容を記録する書記官が2人と副首領の合わせて23名が元老会議室に集っていた。
リテラが帰還したタイミングが良かったのか悪かったのか、臨時会議が招集されて、今正に会議が進行されていた~と言う状況だった。
「よく戻ったな、リテラよ。」
そう声をかけて来たのは、リテラの故郷である氷風の谷モクトのモクト長であった。
名は、セイデン・アルディエラ。
エルフと人間の混血のハーフエルフである。
「長老・・・」
リテラはハっとなり、頭を下げた。
故郷のモクト長に会うのはかなり久しぶりだったので少し緊張したが、声をかけられてすぐ、普段通りに戻った。
「現在、今後の戦略と実行部隊の選出について話おうておる所じゃ。」
そう言ってきたのは、元老院で一番最高齢のモクト長で銀狼族のヨキサ・ククメシュだった。
ヨキサ・ククメシュは、ルキソミュフィアがルキソミアだった頃からこの国の行く末を考えてきた人で、かつてルキソミュフィアが王立国家だった頃の最後の王に仕えていた従者の一人でもあった。
リテラは、ちょっと場が悪かったと思い引き返そうと思ったが、今しがた入ってきた扉の前には守衛が立ちふさがっていた為、やむなく報告をする事にした。
「報告します。第一魔道部隊第二遊撃班所属のリテラです。ただ今帰還いたしました。」
そう言って、リテラは頭を下げた。
そしてすぐ、顔を上げた。
「我が第二遊撃班は、私を除いて全滅したと考えられます。」
と、曖昧な報告をした。
それに早速疑問を抱いたのが、緑風の森のモクト長であるサラーサ・リゲルだった。
サラーサは完全なるエルフで、主に森林の管理育成に努めている。
普段は、森林の奥にある妖精界の門の周辺で活動しているのだが、元老院が開かれる時だけ街に下りてきていた。
「何故、自分だけ生き残った事を確信出来ないのか、答えよ。」
その問いに、あのソルフゲイル民に捕まって保護された事を素直に答える訳には行かなかったので、少しばかり架空の内容に訂正して伝える事にした。
街道沿いで行き倒れていた所をソルフゲイルの軍人に捕らえられた所までは同じだが、その後見張りの隙をついて脱走に成功して、あとはニーアーライルで帰還した~と言う事にした。
多分この話なら、それなりに納得してくれるとも踏んでいた。
「そうか・・・・一時期だけソルフゲイルに捕らえられていたのだな。」
コクリと頷いて、また前を見据えた。
「お腹が痛くなったフリをして用を足しに行った隙に、変身の技を使って変装してヤツらの目を欺いて脱走しました。」
どの変身を使ったのか見せるため、二度目に使った変装を見せた。
金髪に青い目、ピンク色の服~の、いかにもドコにでも居そうな町娘風味に変身して見せた。
「なるほどのぅ~、これならヤツらもまさか銀狼族とは気づくまい。」
ヨキサ・ククメシュが目を細めながら笑った。
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ヨキサの様子を見た他のモクト長は、リテラの説明に完全に納得行っていない者も居た様だったが、これ以上追及した所で何も出そうな気配が無い事に気付いたのか、それ以上は言及を求められなかった。
「では、セクトシュルツのソルフゲイル軍の様子についての言及を求める。」
そう言って来たのは、議長のオルティナ・セフィムだった。
彼女は人間で年齢は25歳。
この会議室に集う23人中一番若かった。
長年ルキソに住む軍属の家系と言う事から、今回のソルフゲイル戦役での敗戦の処理や各部隊への指示などの一番面倒な部分を担っていた所為か、その顔にはかなりの疲労感を滲ませていた。
「セクトシュルツでのソルフゲイル軍は、至って平穏と言うか、今まで戦争していたとは思えない程の余裕を見せておりました。」
リテラは、助けてくれたあの3人の様子を思い出しながら語った。
「セクトシュルツの街は活気にあふれ、軍人が歩いていても街の人は特に嫌そうにもしていない雰囲気が見受けられました。」
これは、2回目の変装でニーアーライルに会いに行く途中で見た風景から感じた事だった。
セクトシュルツの街は本当に、ルキソとは違った明るい雰囲気に満ち溢れていたので、これが勝利した国の街なのか~と思ったのだ。
「ただ、かなりニーアーライルは忙しそうで、元老院に挨拶に行けなくて申し訳ないと申しておりました。」
と、言った所で、ニーアーライルの故郷のモクト長が「どこかで休みをくれてやらないとアイツは休まんのか?!」と呟いていたのを、リテラは聞き逃さなかった。
「分かりました、お疲れの所ありがとうございます。出来れば空いている席に座って、引き続き報告しに来る予定のナタリア・デルベラントの話を聞いてください。」
議長のオルティナは、もう少ししたらナタリアが来ることを告げていた。
ナアリアは、ルキソミュフィアの炎帝と呼ばれるほどの炎の魔術に長けた魔導士で、元々は黒竜族だったが、ソルフゲイルの別の戦役で翼を失い役立たずのレッテルを貼れて迫害されていた所を、農作物の貿易に関する取り決めについて交渉に来ていたヨキサが、ルキソミュフィアに連れて帰って来たのだ。
それから約10年が経ち、今やルキソに無くてはならない存在にまで成長したのがナタリアだった。
黒竜族は翼を失うと、竜化出来なくなる特性がある。
そのため、竜化して軍人を載せる事の出来なくなった黒竜族は、ソルフゲイルではかなり非道い扱いを受けている者が多いそうだ。
リテラが滞在したセクトシュルツではそんな風景を見る事は無かったが、ソルフゲイルの他の街では見るに堪えない惨たらしい迫害が横行していると、その昔ナタリアが語っていたのを少し思い出していた。
「まだ来ないのか?ナタリア・デルベラントは?」
不快そうな低い声を響かせたのは、現ルキソミュフィアの最高位である首領代理の副首領、ルザエル・ベルファルドだった。
年齢は35歳。
種族は人間で、端正な顔立ちをしている所為か、ルキソの国民~特に若い女性に人気が高い事で知られている。
ただでさえ敗戦を期していてしかも今後の展望を決め兼ねている状況にある所為か、かなり苛立っている様にリテラには見えた。
(そう言えば・・・・)
リテラはふと、思い出していた。
ニーアーライルが別れ際に、変な事を言ってたな?と。
「あの、少しイイですか?」
リテラは、会議室の隅に置いてある空いている椅子に向かう途中で、不機嫌そうにしているルザエルに話しかけた。
「何だね?言ってみなさい。」
ルザエルは、少し位ならヒマ潰しにでもなるだろう?と言った感じで、リテラに続きを話すことを許した。
リテラは、ニーアーライルが別れ際に言っていた事を、そのまま話し始めた。
「何でも、長老に会う時間すら無かった背景にあるのは、ソルフゲイルで何か不穏な動きがあって、それを確認しに行くために戻らなければならなかった様です?」
と、語尾がちょっと疑問符になったな~と思いながら話を終えた。
リテラには、たいして重要でも何でもない話のもりだったのだが、元老院全体の空気が震えた様な気がした。
(わ!わわわわ・・・・・私、何か変な事言った?!)
目を白黒させていると、ルザエルが突然今まで座っていた席を立ち、空いていた椅子に座ったばかりのリテラに迫って来ていた。
そして、リテラのすぐ目の前に立ちはだかった。
「おい、それは事実か?」
リテラは首を縦に振り続ける事しか出来なかった。
続く。
<9話>
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