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図書館迷走奇譚

ある時、A山さんから電話がかかって来た

その日はまだ夏で、陽も高くて暑くて、帰りにみんなで学校の近所の商店でアイスを買って食べていた時だった。

 

ふと、電話がブルブルと震えるので急いでポケットから出してみる。

 

二つ折りの携帯電話を開いて誰からかかって来たのかを確認すると、父方の祖母の姉の従弟の息子さんで民俗学などを研究していると言うA山さんからの電話だった。

 

何故A山さんなのかと言うと、あ〇〇〇〇〇〇山

と言う事で、読む名前が長い。

 

しかも、あ以降の名前を思い出せなくて、それでA山さんと呼んでいるのだが、当の本人も「A山です」と名乗っている事が多いので、それで良いのだろう。

 

A山さんは30回位はベルを鳴らすタイプの人なので、まったりと通話のボタンを押しながら電話を耳に当てた。

 

私「もしもし、お久しぶりです。今日は一体何の御用でしょうか?」

 

A山「あ、環(たまき)ちゃん久しぶり。この間来たのは何年前だったかな?今は高校生?イイな~若くて。僕なんてもうオジサンの部類だよ。」

 

と言いながら笑っている。

 

私「あの~私、友達と一緒なので出来れば後で電話かけ直しますけど?」

 

と言うと、

 

A山「ああ、それだったら、一旦かけてワンギリして。その後僕の方からかけ直すから。そうしないと電話代凄く高くついちゃうからね。」

 

と言って来たので、じゃあそうしますと言って電話を切った。

 

一体何の用だろう?

突然かかってきた電話に、私は首をかしげるしかなかった。

 

 

その日の夜

電話がかかって来た日の夜、8時頃だっただろうか。

私はA山さんから電話がかかってきていたことをすっかり忘れて、風呂に入って寝るところだった。

 

風呂に入ってから電話すると湯冷めしそうだったので、風呂に入る前に電話をかけた。

 

まず、1コールしてから即切る。

山奥の秘境みたいなところに住んでいるから、もう寝ちゃった可能性もあるなー?と思っていたら、マッハの速度で電話がかかって来た。

 

オイ・・・

まさか電話の前でずっと待っていたりしていないよね?

とか思いながら、私は電話に出た。

 

私「もしもしA山さん、遅くなって申し訳ないです。実はすっかり忘れていて~。」

 

と言うと、

 

A山「やっぱりね、そうだろうと思っていたよ。なのでずっと電話の子機を懐に入れて持ち歩いていたよ。」

 

と言うので、私は電話を持ったまま大笑いした。

 

A山「ちょっと環ちゃん!!そんなに笑う事無いだろう?僕はショックで今日これから話す事を忘れてしまいそうだよ、シクシク。」

 

私「ウソ泣きしてもお見通しですよ。」

 

A山さんは、この時17歳だった私より10歳年上だったので、27歳と言う事になるだろう。

この頃から、ちょっと発言がジジむさかったり年齢よりも上なんじゃないか?と思わずにはいられな表現が多くなっていたので、多分研究している民俗学とか神話とか昔話の影響が出ているのかも知れないと思っていた。

 

A山「では、本題に入ろうか。」

 

一通りふざけあった後、A山さんはそう切り出した。

 

A山「実はこの間、久しぶりに下界に降りてとある図書館に足を運んだんだよ。」

 

私「ええーーー!!?いつですか?何で教えてくれなかったんですか!?」

 

久しぶりに下界に降りたとか、神か?と思わずにはいられない発言をかましたA山さんは、

 

A山「多分そう・・・僕に会おうとするからね、だからあえて連絡しなかったのと、その時仕事の関係で色んな人と会わなきゃいけなかったからね、時間も無かった。」

 

と、ちょっと申し訳なさそうに言った。

 

私「ご、ごめんなさい。いや~ほら、なかなかあんな山奥に行くの大変だから、A山さんが来てくれると助かるなーって。」

 

そう言うと、う~んと言う唸るような声を出しながら、

 

A山「じゃあ、来年の春休みは予定を空けておくから、その時に遊びに来ると良いよ。今年は何だかんだ色々忙しくてね、まったり引きこもっても居られないんだ。」

 

と、言って笑った。

そして、

 

A山「さて、本題なんだけど、実はとある人から本を譲り受けてきて欲しいんだ。」

 

と、A山さんは言った。

 

私「本?ですか。一体どんな本なんですか?」

 

A山「うん、実は僕もまだ中身を確認したことが無いんだけど、ただお師匠の遺した本だと言う事は間違いないんだ。」

 

と言った。

 

A山さんのお師匠は、3年前に自宅で急性心不全で命を落としている。

その時の診断はそのまま病死だったのだが、A山さんは納得いかなくてセカンドオピニオンとかサードオピニオンで何度も死因を確かめたけど、全部同じ診断だった。

 

ただ、3軒目の病院で検死と言うか死因を調べてくれた医者の中に一人、ちょっと違う意見を言う人が居て、その人の意見を参考にしているとは言っていた。

 

『・・・まてよ?この心不全は少し不自然な気がする』

 

そう、その医者は言ったのだ。

 

それ以来、A山さんはお師匠さんの死因は他殺なんじゃないか?と思って色々調べているらしいけど・・・・

今回も、ソレ絡みっぽい。

 

私「で、一体私はドコに行けばいいですかね?」

 

A山「東京の、ちょっと大きめのアノ図書館に行ってきて欲しいんだ。」

 

と、やたら嬉しそうに言った。

 

何で自分で行けないのに嬉し楽しそうなんだ?と言う疑問が募ったけど、とりあえずその頼みを私は聞く事にした。

 

 

 

とある大きな図書館

その図書館には、早朝の開場時間ちょうどに着いた。

日本一!とまでは行かないにしろ、そこそこ大きな図書館だったので、私がもし隅から隅まで探索しつくそう!とか馬鹿な考えを起こしたりしたら確実に2日は必要な広さがあった。

 

3階建てで、1階から3階まで全部図書館なので、お腹が空いたら一体どこで食べれば良いんだ?と思っていたら1階の一角がカフェになっていたので、そこで色々食べられそうなことだけは確認しておいた。

 

何せ、腹が減っては戦は出来ぬと言うしね。

 

で、到着早々私はいつものワンギリをして、マッハの速度のコールを受け取った。

 

私「毎回早いですね・・・・今回も子機を懐に?」

 

と言うと、

 

A山「ご明察!よく分かったね環ちゃん。」

 

と言うので私は、

 

私「はいはい、それより例の図書館に着いたんですが、私はこの後誰にその本を受け取ったらいいんですかね?」

 

と言うと、

 

A山「う~ん実はその本、すんなり誰かから受け取れるシロモノでは無いんだよ。何回か面倒なやりとりをする必要があるんだけど、その都度またワンギリしてくれるかな?」

 

私「面倒なやりとり・・・何か面白そうですね!」

 

A山「環ちゃんならそう言ってくれると思っていたよ。」

 

と言って、事の概要を話し始めた。

 

A山「まず、その図書館の日本の歴史を主に扱っている書棚に行くんだ。日本史の書棚の中に安土桃山時代関連の書籍ばかり集めた書棚があるので、よく探して見つけてみて欲しい。その中に、小学館から1980年代が初版の学習漫画天正少年使節』と言うのがあるので、それを借りて欲しい。借りたらまたワン切りしてね。」

 

私「学習漫画ですね、分かりました。」

 

私は概要を聞くと電話を切り、指示された書棚を目指す。

ただ、この図書館はやたら広く、日本史の書棚だけでも10列以上?はあるんじゃないか?と言う状態だったので、安土桃山時代の書棚を見つけるのにかなり時間がかかったかも知れない。

 

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そして更に、『天正少年使節』と言う本を見つけるのにも結構時間がかかった。

本を見つけると私は、ちょっと疲労が蓄積したような足取りで本の貸出カウンターに向かう。

図書カードを持っていなかった私は、まず最初に図書カードを作り、それから本を借りる事となった。

 

本を借りた後、ちょっと喉が渇いた私は、1階のカフェで冷たい飲み物を注文して休んだ。

休みながら電話をかけてワン切りした。

 

すると、またマッハの速度で電話がかかって来た。

 

A山「もしもし、お疲れの様だけど大丈夫かな?」

 

と、まるで物陰から見守っていた親の様なセリフを言って来たので私は、

 

私「何でそんなこと分かるんですか?私は元気ハツラツですよ!わははは。」

 

と、カラ元気で答えてあげた。

 

A山「へえ~流石現役高校生、若いってイイね羨ましいよ。僕も高校生時代に戻りたいなぁ。」

 

と言うので私は、

 

私「出来れば次のやる事を早めに教えてくれると助かるんですが。」

 

と、若干辛辣な口調で返した。

すると、へいへいと言いながらA山さんは、

 

A山「その借りた本の一番後ろのページに、その本の寄贈者の名前が書かれていると思うんだけど、ちょっと見てみてくれないか?」

 

と言うので、私は早速本の一番後ろのページをめくる。

するとそこには、寄贈者の名前がこう書かれていた。

 

貫井 治(ぬくい おさむ)

 

私「貫井治って書かれていますけど?」

 

A山「うん、貫井治、そうそう。」

 

と、何かを確認したような返事をすると、

 

A山「じゃあ次は、図書館を出て左側の大通りに面して300m位歩いたところに古本屋があるんだ。その古本屋の名前は五月雨堂(さみだれどう)。その本屋に入ると店主が出て来るから、その店主に『合言葉は?』と言ってみて。」

 

私「ええ?初対面の人に合言葉?」

 

A山「うん、合言葉を聞いたらまた電話して!」

 

と言うと、ブツリと電話が切れた。

 

 

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五月雨堂

五月雨堂は結構分かりやすい場所にあった。

大通りに面している~と言う点もあるかも知れないが、その店構えが明治時代?を彷彿とさせる作りをしていたので、他の近代的なビル群を背景にすると、ココだけタイムスリップしたかの様な錯覚を覚えた。

 

五月雨堂の中に入ると、いたって普通の古本屋?と言う感じの書棚が並んでいた、

よくある古本屋とは違っていたのは、漫画などの娯楽系の本があまり無く、小説の文庫や新書やハードカバーの本や何かの専門書が中心で置かれている古書店だった。

 

「いらっしゃい」

 

店主らしき男から声をかけられた。

私は、

 

私「あ、あのぅ・・・スミマセン、『合言葉は?』」

 

と、申し訳なさそうに問いかけた。

すると、

 

「おお、貴方がA山さんの使いの方ですね。私は貫井治と言います。」

 

と、店主は名乗った。

 

私「ぬくい・・・おさむって、この本の寄贈者!の?」

 

私は言いながら、さっき図書館で借りた本を出した。

 

貫井「ああそれは、懐かしい。読み終わってすぐ寄贈してしまったのでまた読みたいと思っていたのですよ。」

 

と言って、私が差し出した本を受け取った。

 

あれ?本は貫井さんに渡しても良かったのかな?

この辺は指示されていないので分からないけど、とりあえず渡しておこう。

 

で、肝心の合言葉の方はいつ出て来るのか?と思いながら、私は貫井さんの顔を覗き込むと、

 

貫井「ああ!忘れるところだった、合言葉ですね。」

 

と言いながら、ニコニコと楽しげな笑顔を見せた。

 

貫井「合言葉は、『御巣鷹山に行け』です。」

 

私「御巣鷹山・・・・」

 

はて、どこかで聞いた山の名前だ・・・と思っていたら、急激に思い出した。

 

その昔、日航機が墜落して大勢の人が亡くなった凄惨な事故があったのだが、その墜落した山の名前が御巣鷹山だった。

 

その御巣鷹山に行け?と。

 

私は、店主に会釈をして、慌てて店を出た。

 

 

再び迷走

店を出た私は、図書館に戻る前に古本屋の前の大通りを横断歩道で渡った先にあるバーガーショップで腹ごしらえをしていた。

 

どうもあの図書館のカフェは落ち着かないと言うか、がっつり食べるものがあまりメニューに無かったので、何かしらのタイミングがあればガッツリ系の食事をするつもりではあったのだ。

 

都会のバーガーショップの値段設定はちょっと高かったけど・・・・

今回の経費は後でA山さんに請求してやる!と思って、思い切って奮発した。

奮発しただけあって、それはもう至福の時を感じていたのだった。

 

と、思い出す。

合言葉を聞いたらまた電話するんだった。

そうして、いつもの様にワンギリすると、マッハで電話かかって来た。

 

A山「何か遅かったね~どうしたの?貫井さんに昔話を語られちゃった?のかと思って僕はちょっと心配していたよ。」

 

と言うので、

 

私「いや、普通に短時間で合言葉を受け取り、今は近くのバーガーショップで腹ごしらえをしている所です。」

 

と、答えると、

 

A山「あ!もしかして、五月雨堂の前の大通りを挟んだ先にあるバーガーショップじゃないのかな?」

 

と言うので、

 

私「A山さん、もしかして衛星写真とかで私の位置を確認したりしていないですよね?」

 

と、あからさまに嫌そうに答えた。

 

ただ、こんなやり取りを続けていると本題を聞く前に日が暮れそうな気がしたので私は、

 

私「合言葉聞いてきました。その言葉は、『御巣鷹山に行け』です。」

 

と言うと、

 

A山「御巣鷹山・・・・ああ~なるほど、ふむふむ。では、次の指示を出そう。次は、また日本の歴史・・・いや事件・事故の棚かな?その辺りに行くと、日航機墜落事故関連の書籍ばかり並んだ所に出くわすと思うから、そこにあるとある本を探し出して欲しい。」

 

私「とある本・・・何か今度はやたら曖昧ですね。」

 

A山「実は、この本に関しては表紙がボロボロで修復が必要と言う情報しか得ていないんだ。なので、実際に見てボロボロの日航機関連の本を探し出して欲しいんだ。」

 

と言った。

 

何か段々指示が曖昧になって行く所を見ると、途中まではある意味確信のある情報を得ていたけど、ここいら辺からは不確かな情報と言う事になってくるのだろうか?

 

私「表紙がボロボロの日航機の事故関連の本を見つけたら、次はどうしたらイイんですか?」

 

と聞くと、

 

A山「そのボロボロの本はね、確か本の修繕の担当の司書の花森若菜(はなもり わかな)さんと言う方が探している本なんだよ。なので、本の貸出カウンターに行って修繕担当の花森さんを呼び出して欲しいんだ。」

 

私「分かりました、花森さんを呼び出してその見つけた本を渡せばいいんですね。」

 

A山「そうそう、だんだん分かって来たね。そしたら花森さんが代わりに同じタイトルの本を貸し出そうとして来るんだけど、多分図書館の所蔵本ライブラリに検索してもその本のタイトルは、そのボロボロになっている本しか出てこないので、代わりの本を借りて欲しいんだよ。」

 

私「代わりの本?ですか。」

 

A山「多分その代わりの本は、花森さんがチョイスしてくれるんだけど、なるべく御巣鷹山関連の本を借りれると良いね。」

 

と言いながら最後に健闘を祈ると言って電話が切られた。

 

何か・・・・今回はちょっと面倒臭そうな気が。

とりあえず、事故や事件関係の書棚を探してみる事にしようと思った。

 

 

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書棚ジャングル

図書館って言うのはどうも、書棚を密林と例えるともうジャングルにしか思えなくなってくるから不思議だ。

 

行けども行けども本だらけ。

本棚の間にまた本棚があるよ。

って図書館なんだから仕方がない。

 

事件や事故関連のコーナーに着くと、そこでは西暦別に事件や事故を管理している様で、年代別に本が並べられていた。

 

日航機墜落事故は~1985年っと~・・・・

私は、1985年の書棚に辿り着く。

 

すると、もう背表紙からボロボロの本が目に飛び込んできた。

あ、もうコレに間違い無い。

 

タイトルを読むのも難しそうなボロけ具合だったので、もうコレしかないだろうと思って、まさか他にも修繕が必要な本があったりしないだろうか?と思って探してみたら、とりあえずヤバそうな程ボロけている本はコレだけだった。

 

私はその本を手に、貸出カウンターに向かった。

 

貸出カウンターに着くと、さっき貸し出しをしてくれていたお姉さんは居なくなっていて、代わりに「花森」と言う名札を付けたお姉さんが入っていた。

 

もしかしてこの人が、修繕担当の花森さん?かも知れないと思った私は、

 

「あのぅ、この本を修繕担当の方に渡す様に言われたんですが。」

 

と、目の前にいる花森さんに渡した。

すると、

 

「ああ!それそれ、探していたんですよ!ありがとうございます!」

 

と言って、花森さんがいたく喜んでいたので、ちゃんと本人に渡せた事を知った。

そして、

 

私「あのぅ出来れば、その本と同じタイトルの本を借りたいんですけど?」

 

と尋ねると、

 

花森「あ、ちょっと待っててね。検索かけて綺麗な表紙の本があるか見てみるから。」

 

と、答えた。

数分後、A山さんが言っていた通りに、その本と同じタイトルの在庫は見つからず、意気消沈する花森さんが目の前でうなだれていた。

 

花森「ごめんんさいね~何か他にももう1冊あった筈なんだけど、どうしても見つからなくて。」

 

と言うので私は、

 

私「いえ、こちらこそお忙しい所ありがとうございます。出来れば代わりの御巣鷹山関連の本を貸していただけるとありがたいのですが~。」

 

と言うと、

 

花森「あ、今修繕終わったばかりで同じ様なテーマの、この本を持っていくと良いわよ!」

 

と言って、『御巣鷹山と私』と言う本を貸してくれた。

 

私「ありがとうございます!」

 

私はお礼を言って、カウンターを後にした。

 

1階のカフェのテーブルでまた電話をかけて切ると、またマッハ速で電話がかかって来たので通話ボタンを押す。

 

私「本、借りれましたよ。今しがた修繕が終わったと言う『御巣鷹山と私』と言う本です。」

 

と言うと、

 

A山「流石!そうそう、その本を借りてきて欲しかったんだ!」

 

と、かなり嬉しそうに話す。

 

A山「その本はね、今度こそ僕が受け取って欲しい本を持っている人が探していた本でね。まぁ持っていけば分かるよ。」

 

と、何か大事なものを見つけた時の様な声のトーンで話した。

 

私「じゃあ、これが最後の指示ですね。」

 

と私が問いかけると、

 

A山「うん。ありがとう環ちゃん、お礼は弾むよ。」

 

と言うので、

 

私「じゃあとりあえず現段階ではバーガー代を請求しますので、よろしくお願いしますよ?」

 

と言って置いた。

 

A山「最後の指示だけど、今度は世界史を扱っている書棚に行って、ヨーロッパの歴史のうち百年戦争をテーマにした書籍が置いてある棚に向かって欲しい。そこに、本を読むためのイスとテーブルが並んだ一角があるんだけど、奥の座席の窓側の角に座っているスーツ姿のお爺さんが居るから、その人に話しかけて欲しいんだ。」

 

私「ぅわ、何か簡単そうだと思ったらまた面倒な・・・・で、何と話しかければ?」

 

A山「それは・・・・」

 

私はその言葉を聞いた直後、すぐにテーブルの並んだ一角に向かった。

 

 

最後の本

指示されていた場所には言われた通りの人が座っていたので、私はすぐにさっき借りた本を渡そうとする。

 

すると、

 

「何じゃお前さんは?儂はお前さんなど見た事も会った事も無いと思ったがの。」

 

と、先に言葉をかけられた。

 

私は本を渡す前に、さっきA山さんに言われた言葉をその老人に言った。

 

私「多々良井の使いの者です。」

 

そう言うと、老人は急に涙を流し始めた。

 

「そうか・・・!多々良井先生の・・・・そうかそうか。」

 

と言って、何度も涙を拭った。

 

私は老人の目の前の座席に座り、さっき花森さんから借りた本を渡した。

 

私「あなたがお探しの本は、コレですか?」

 

そう言うと、老人はまた、今度は手持ちのバッグから大きめのタオルを出して顔に押し付けた。

 

老人「そうです。儂はここ数年、この本を探していたんだ。」

 

と言って声を押し殺しながら泣いていた。

 

御巣鷹山と私』

 

この本と老人の間には一体どんなドラマが隠されているのだろうか?と少し気になったが、それよりも今回はこの老人から受け取らなければならない本があった筈だ。

 

私は、老人の涙が収まるのを待っていた。

 

老人は、ひとしきり涙を流した後、今度はタオルでゴシゴシと顔を拭き終わると、私の方を向いた。

 

老人「では、約束のモノを渡そうかの。」

 

そう言って、タオルが入っていたバッグを開けて、箱に入った本を出した。

その本の作者は、多々良井匡孝(たたらい ただたか)と記されていた。

 

私「これは・・・あのお師匠さんの・・・・」

 

私は本を受け取ると、箱から本を出し中身を見てみた。

すると中の本文は日本語ではなく漢文で記されており、よく見ると本にバーコードなどが記載されていない事から、この本が一般の書店で流通しなかった本だと言う事が分かる。

 

老人「この本を手に持って図書館を出ようとすると怪しまれるからね、このカバーを付けてから持ち出すと良い。」

 

と言って、また別の箱の様なものを取り出した。

そこには、別の本のタイトルが書かれていて、本の貸し出し用の図書館のバーコードも入っていた。

 

老人「この箱の本はすでに貸し出し中になっているから、そのまま持ち出しても何も起こらない筈だよ。」

 

と言うので私は、

 

私「ありがとうございます。」

 

と言って、受け取った本を渡された箱に入れて胸に抱えた。

 

去り際、老人が私に、

 

老人「A山さんに、よろしくと言って置いてくれ。」

 

と言うので私は、

 

私「はい、分かりました。」

 

と言って、会釈してその場を去った。

 

 

迷走終了

本を受け取った私は、今度は図書館からも出て、図書館から最寄りの駅に行く途中にある噴水が出て涼しげな公園のベンチに座って、近くに会った自動販売機で買ったジュースを飲みながらまたA山さんにワン切りした。

しかし今度はマッハではなく3分位経ってからかかって来たので、何かちょっと勝ったような気分になった。

 

私「もしもしA山さん、もしかして私が手こずると思って昼寝していたんじゃないですか?」

 

と言うと、

 

A山「ええ!何で分かったの?環ちゃんこそ衛星写真で僕の事監視してない?」

 

と言って来たので、私はジュースを吹きそうになるほど大笑いした。

 

 私「例の本、受け取りました。」

 

と言うと、

 

A山「うん、ありがとう。その本はこの世に50冊しか出てないから、僕はもう手に入れられないんじゃないかと思っていたんだよ。」

 

と言って、かなり嬉しそうにしていた。

 

私「多分この本は送って欲しいとか言うと思っているんですが、A山さんの住所に着払いで送ったらイイんですかね?」

 

と言うとA山さんは、

 

A山「本当助かる!物分かりのいい弟子が居ると本当助かる!!」

 

とか言うので、

 

私「あれ?私いつからA山さんの弟子になったりしましたっけ?」

 

と、嫌悪感たっぷりに返すと。

 

A山「あはは、ごめんごめん。」

 

とって謝罪した。

 

私はその後、近くの郵便局でその本を着払いで発送した。

コレで今回の私の任務?は終わりだ。

あとは、かかった経費をA山さんに請求して・・・・

それと、今度会った時にあの本の内容を聞いてみようと思った。

 

なんて事の無い夏が、ちょっと楽しかったある日の話である。

 

 

 

 

 

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